本年度は、研究代表者が自己の民俗調査によって既に収集している漁民信仰資料の分析を進めると同時に、国内の漁村において漁民信仰、および韓海出漁・韓国巨文島移住についての民俗調査を実施し、その資料の整理・分析を進めた。具体的には以下の調査・研究を実施した。 (1).研究代表者が実地調査で既に収集している漁民信仰資料の内、<霊性型>および<精霊型>のフナダマ信仰が特徴的に見られる地域(鹿児島県、沖縄県、愛媛県)で記録した映像・音声資料の整理・分析を実施した。 (2).福島県沿岸漁村(いわき市)での調査を実施し、地域の漁撈形態、造船儀礼におけるフナダマ信仰のありかたを分析した。同地域では妊婦の毛髪をフナダマの御神体とするフナダマ信仰が見出され漁民生活における女性の位置づけについて分析した。 (3).明治期から昭和期にかけての韓海出漁の実態を考察する為、萩市郷土博物館の協力を得て防長新聞をはじめとする山口県下の地方紙から漁撈、漁業組合、漁民信仰・行事、韓海出漁に関する記事を抜粋し、その整理を実施した。 (4).研究代表者が既に実地調査を行っている山口県下関市豊浦町湯玉における漁民信仰や漁民生活に関する調査資料の整理・分析を進め、特に日本海側漁村におけるフナダマ信仰のありかたに検討を加えた。 (5).同村からの韓国全羅南道巨文島への移住に関する調査資料の整理、分析を進めるとともに、同地域において調査を実施し、母村における漁民信仰のありかたと、巨文島における漁民信仰のありかたとを比較し、検討を加えた。 全体を通じて、<霊性型>フナダマ信仰、<精霊型>フナダマ信仰、<社寺型>フナダマ信仰が展開する各地域での調査資料、ならびに韓海出漁、巨文島移住についての調査資料の集積、整理・分析の進展を成し得た。
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