研究課題/領域番号 |
18520622
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
宮内 貴久 お茶の水女子大学, 人間文化創成科学研究科, 准教授 (10327231)
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研究分担者 |
大口 勇次郎 お茶の水女子大学, 人間文化研究科, 名誉教授 (00017112)
安田 次郎 お茶の水女子大学, 人間文化創成科学研究科, 教授 (60126191)
神田 由築 お茶の水女子大学, 人間文化創成科学研究科, 准教授 (60320925)
佐野 賢治 神奈川大学, 経済学部, 教授 (90131127)
小池 淳一 国立歴史民俗博物館, 民俗系, 准教授 (60241452)
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キーワード | 民俗学 / 歴史学 / 読書 / リテラシー / 職人 / 由緒 |
研究概要 |
これまでの調査で収集してきた大工由緒書・儀礼書の大部分は近世、近代のものであった。今年度の大きな成果は(1)真偽はともかくとして、大永5(1525)という中世の紀年銘を持つ『日本番匠記』という大工由緒書・儀礼書が福井県で発見されたこと、(2)同書は古典的大工由緒書である『日本番匠記』系本の写本であることが明らかになったことである。このことは福島県会津地方からスタートした共同研究が、(1)中世をも視野に入れる歴史的研究につながったこと、(2)全国的な展開が可能になったことを意味し、本研究のさらなる発展と研究課題が明らかとなった。 また、これまでの調査研究では、大工由緒書・儀礼書の所蔵者は普段は読まない、儀礼で使用する以外は開かないなど、巻物は読む物できなかった。巻物は一人前の証であり、儀礼を演出する呪物的な存在であった。言わば巻物は文字が記されているものの、文字を介して情報を伝達するという機能を全く果たしていないことを指摘してきた。しかし、今年度の調査研究では、大工自身が積極的に、文字文化を得ようとする事例を取り上げ、版本から、あるいは書写することにより文字によって、新たな知見を得ていることを明らかにした。このことは、譬え、大工という職人であっても、高いリテラシーを持つ者は積極的に古典的木割書・儀礼書を書写することにより、高い知識を文字文化を通じて習得し、さらにその知識を地域に伝達していたのであり、本研究テーマの大きな成果となった。 周知の通り、版本あるいは写本を通じて文字文化は地域に流入し受容されてきた。本研究では、従来あまり史料的に注目されてこなかった一枚物という史料について、版本・書写本の大雑書と、一枚物の大雑書を比較し、前者の方が言うまでもなく情報量は多いが、後者は必要な知識を凝縮したものであることを指摘し、(1)一枚物の方が庶民が必要とした知識を反映していること、(2)一枚物を通じて庶民の間に陰陽道知識が流布したことを明らかにした。
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