本研究は、近代世界の周辺に位置づけられてきたラテンアメリカ諸国の先住民と近代地図の関係を19世紀以降の約2世紀というタイムスパンに沿って明らかにし、地図の大衆的普及が先住民社会にもたらす影響を文書メディアと人間との安定的な関係の構築という視点から究明することを目的として実施された。 本研究では、平成18年度から19年度にかけて2回(ペルー、ボリビアにおいて、合計約3ヶ月)の現地調査を行った。現地調査では、ペルー国立総文書館、ペルー国立図書館、プーノ地方文書館(以上、ペルー)、ラパス文書館、ボリビア国会図書館、ボリビア国立図書・文書館、ポトシ文書館(以上、ボリビア)などの機関を対象に、20世紀前半にペルーで設立された先住民事務局の活動に関する文・書資料、及び19世紀後半のボリビアで実施された地籍事業に関連する行政・司法文書を中心にデータ収集を実施した。 その成果として、特に19世紀後半にボリビアで実施された地籍事業と先住民社会への影響について、現地の文書館で収集された約1000点に及ぶ地図史料などをもとに明らかにし、これらの地図がいつ、どのような経緯で作成され、どのような人々の手に渡り、そして参照された(されなかった)のかという、100年以上にわたる地図の文書循環サイクルを歴史的に再構成することができた。さらに土地裁判資料に基づく地図の用法分析により、近代地図の大量・大衆的普及が先住民社会に与えた影響やその波及効果、阻害要因などについて文書管理実践の視点から具体的に検討した。
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