具体的内容:マダガスカルの野蚕・家蚕の複合的シルク生産と野蚕資源管理の歴史と現状を明らかにし、それを世界のシルク生産地間のグローバルな関係のうちに位置づけて考察し、研究成果を現地に還元することによって、シルク生産の持続的発展にむけた方策を検討することをめざして、(1)平成19年10月から平成20年3月まで、マダガスカル大学付属考古・芸術博物館に所属し、現地の研究者と情報交換および共同研究をすすめるとともに、11月に首都アンタナナリヴで開催されたシルク産業振興のためのシンポジウム(ジュール・デ・ソワ)に参加した。(2)昨年に引き続き、マダガスカル中央図書館、アカデミー・マルガッシュ図書館、統計局など省庁の資料室において、歴代政権の養蚕政策と野蚕資源保護政策に関する文書資料を収集し、資料リストのデータベース化作業をすすめた。さらに(3)野蚕・家蚕複合的シルク生産と流通ネットワーク、グローバル化にともなう近年の経済・政治・自然環境の変化が、現地のシルク生産にもたらした影響について、フィールド調査をおこなった。 意義:(1)マダガスカルの野蚕種の地域的多様性と資源状況が明らかになり、(2)森林破壊による野蚕資源の減少が野蚕糸を用いた屍衣生産から輸入綿糸や化繊糸を用いた屍衣やショールの生産への移行を促進した結果、一部地域で失われつつある伝統的な製糸・製織技術を記録し、(3)家蚕の繭と糸の流通システムが未整備なために、政府やNGOによる養蚕支援が農村開発に有効に機能していない現状を分析したことにより、マダガスカルのシルク生産の持続的発展にむけた今後の政府や諸団体の施策に寄与できる意義がある。 重要性:(1)マダガスカルのシルク生産の全体構造を捉える最初の総合的研究であり、(2)政府やNGOによる野蚕資源の保護策や養蚕振興策がかかえる諸問題の背景を掘り下げた数少ない実証的研究として重要な意味をもつ。
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