今回のプロジェクトの研究目的は、デジタルメディア時代にふさわしい、人文科学研究基盤形成のための新しい文献学の可能性を探るというものである。今年度は、このプロジェクトのなかで生じた成果を、以下の3つの学会で公表することができた。まず、アーカイブズ学との関連から文献学の新しい方向性を見つけ出す探求に関しては、平成20年4月に東京で開催された日本アーカイブズ学会年次総会で口頭発表した。また、昨年度に本研究のスピンオフとして開発に成功していた文学研究用データベースのプロトタイプについては、6月にフィンランドのオウルで開かれた国際学会(Digital Humanities 2008)で、デモンストレーションをおこなった。さらに、日本における編集文献学の現状分析とデジタル化時代を迎えての今後の展望をめぐる考察については、ニューヨークで2年に一度3月に開催される文献学の国際大会(Society for Textual Scholarship)でPaper発表をおこなった。今年度このように2度にわたって個際学会での成果発表を果たせたことは、本プロジェクトの着実な進展を示しているといえるだろう。また、今年度の目標であった欧米の文学テクスト電子化プロジェクトに関する調査も順調に進み、同調査の一環としておこなっている当該テーマの学術書の翻訳については、来年度中にも書籍としての出版という大きな成果につながる見込みである。この訳書の刊行は、編集文献学という日本ではほとんど未知の学問分野を最初に詳しく紹介するという意義をもつものである。さらに、今年度の実績としては、ここ2年間と同様、他のプロジェクト(代表者が連携研究者として参加している萌芽研究プロジェクト)と共同で文献学研究会を開催したこと、とくに9月には、その研究会外の発表者・参加者も招いて、拡大ヴァージョンの文学研究ワークショップ「新しい時代の文献学を模索して」を開催したことも挙げられる。
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