今回のプロジェクトは、デジタルメディア時代にふさわしい、人文科学研究基盤形成のための新しいの文献学の可能性を、ヨーロッパの編集文献学に基づいて模索することを目的とるものである。今年度の論文成果としては、まず平成21年10月に日本アーカイブズ学会誌に発表した論考が挙げられる。そこでは、編集文献学とアーカイブズ学という2つの新しい学問分野のさらなるたな融合的取り組みの必要性を、資料の名付けという観点からカフカ資料における具体例に即して説いた。また同年11月に研究協力者である富澤浩樹(埼玉大学大学院)とともに経営情報学会で発表した論考も、次世代の文学研究プラットフォーム形成をめぐって、情報システムデザイン的見地から検討した成果として挙げられる。(加えて今年度は、欧米の文学テクスト電子化プロジェクトの調査の一環として、派生的に取り組んでいた学術書の翻訳も完成させた。)さらに特筆すべきは、平成22年3月に、連携研究者であるクリスティアン・ウィッテルンは(京都大学)とともに、本テーマを主眼としたかなり大きな規模の国際会議をオーガナイズしたことである。埼玉大学および印刷博物館(東京)として2日間にわたっておこなわた会議には、世界8カ国から集まった研究者により計15本のペーパーが読み上げられ、のべ約100名におよぶ参加者を交えて、新しい時代の文献学をめぐって先端的な議論が繰り広げられた。本会議の成功は、最終年度にふさわしいとして、本プロジェクトのテーマの重要性の確認と今後の展開への多くの示唆と励みを得るものとなった。
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