研究概要 |
本年度は,ドイツにおいて19世紀末から「一般宗教史」研究として成立し,後の「宗教学」形成を促進することとなった所謂「宗教史学派」の成立・確立・普及情況を,この学派が当時の宗教的布置に対して如何なる診断を下し,それに基づき如何なる行為を通して当時の宗教的情況に介入し,「宗教的に」実践していったかを解明した。まず,この学派の学問的かつ宗教的マニフェストと呼び得る事典Die Religion in Geschichte und Gegenwart(1909ff.)刊行に見られる「宗教的」モチーフを解明するために,当事典を刊行した出版社(現在のMohr Siebeck社)文書資料室(ドイツ・テュービンゲン市)を中心に,史資料の検討に当たり,更にテュービンゲン大学図書館において,宗教史学派による他の刊行物(叢書等)の発刊意図を探った。その成果の一部は,9月中旬の日本宗教学会学術大会において公表され,またその内容を深化させた形で,来年度中に論文集において発表されることになっている。 また,戦前のドイツ宗教学の「大家」であり,戦後も世界の宗教学界に多大の影響力を及ぼし続けたR.Ottoの宗教的活動(特に,宗教間対話を目指して1921年に設立されたReligioser Menschheitsbund(宗教的人類同盟))を当時の宗教史的並びに学問史的文脈の中で検討し,学問(「宗教学」)と宗教との相関関係を解明した。本年度はこれまでの成果を踏まえた上で,新たな史資料の検討を進めた。この研究の成果も,来年度,学術雑誌に発表する予定である。 このようにドイツにおける「宗教学」の歴史を,「学説」史としてではなく,その社会・文化的連関に位置付ける試みは今後,宗教研究にとって新たな方向性を示すものであると確信している。
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