本年度は、自由主義プロテスタンティズムの学術雑誌Zeitschrift fur Missionskunde und Religions wissenschaft (1886ff.)に見られる、宗教史学派・自由主義プロテスタンティズム・伝道学・宗教学の相互依存関係を考察すると共に、研究総括年度の課題として、これまでに遂行した、「宗教学」の制度化を可能とした政治的文脈の分析、そうした文脈における「宗教学」の学問外的要因の解明、そして第一の課題として挙げた「宗教学」と神学との相関関係の調査、以上の研究成果を総合的視点から考察した。第一の課題については、雑誌編集者等の「宗教学」理解が、伝統的な「宗教」理解を超えた新たな(脱神学化した)「宗教」理解に根差していることを明らかにした。研究の過程で、この新たな「宗教」観念を可視化し、運動体として展開させようとする動き(宗教学の宗教化)が顕著に見られることが発見された(「自由プロテスタンティズム」と呼ばれる、制度化された宗教に対する、宗教的自由主義を中核とする反教権主義的刷新運動、更には宗教的自由主義の急進化の果てに現れたアーリア至上主義的な「ドイツ的」宗教の確立を目指す運動)。こうした知見に基づき、また2)で述べた、伝統的な「学説史」記述を超えた「学問史」的反省作業を通じて、「宗教」を「学問的」に語るという行為の持つ「宗教的」含意並びにその支配的政治言説との親縁性が解明されることとなった。このような「学問史」的考察は、「宗教学」なる営為の一端を、それが営まれる場の「宗教(政治)的」文脈から分析するという視点に基づいており、これまでの「宗教学」の知識社会学的反省を促すと同時に、これからの「宗教学」の新たな方向性を模索する一助となると考えられる。
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