1.阿蘇町・一の宮町・波野村の合併による阿蘇市の誕生のケースと、合併に至らなかった小国町・南小国町のケースとを調査検討した結果、阿蘇市のケースでは、入会権に実質的な変更を加えないように合併協議が進められたこと、また、小国町・南小国町のケースでは両町の入会政策の違いによる入会権調整の困難さが合併を妨げた理由とはいえないことがわかった。 2.阿蘇市のケースでは、三町村の「合併協定書」において、町有の山林原野の使用・処分等の権利関係については、合併前の旧町村の旧慣行の適用が阿蘇市に引さ継がれることか合意された。したがって、合併前の入会権については実質的な変更はなく、所有名義が新市に移行された後も、山林等の処分に伴う分収割合等についても牧野組合との間では変更がないことが確認されていた。それゆえに、入会権の調整は町村合併を妨げる争点にはならなかったことがわかった。 3.上述の「合併協定書」において、「新しい財産区は設置しない」ことも確認されたが、すでに一の宮町に存在していた財産区はそのまま存続が認められ、その事務を阿蘇市が引き継ぐことも合意されていた。しかしながら、新しい財産区の設置による町村間の入会権調整はなされなかったことがわかる。 4.小国町・南小国町のケースでは、合併協議を進める過程では入会権をどのように調整するかについて4.議論がなされたことはヒアリング調査を通して確認できたが、その議論の内容が公式の記録に残されていることは確認できなかった。早くから入会権の近代化政策を進めてきた小国町と町有入会地を政策的に維持してきた南小国町の入会政策の違いは両町の合併を妨げた大きな理由にはなっていないことがわかった。
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