研究計画のうち平成18年度分として、司法制度改革と法理論の関係を取扱った。 第1に、改正行政事件訴訟法のもとでの行政訴訟の捉え方につき、立案関係者側の考え方(司法制度改革推進本部・行政訴訟検討会における議事録や国会委員会審議録、その他出版物)を本研究の視点から整理し直すとともに、現場の実務家(裁判官・弁護士)とのシンポジムや座談会の機会を捉えて、また個別のインタビューを通じて、改正行訴法がもたらした変化の実感について、調査をおこなった。 第2に、「法の支配」の見地から改正行政事件訴訟法の意味するところについて検討した。これは、裁判的救済が憲法ないし法の支配・法治主義の観念上どう位置づけられるのかという、きわめて基礎研究的な調査である。結論として、わが国においてはこの点の明確な理論構成が欠けていることに改めて注目すべきであると考えるに至った。実務家は、裁判を行政統制の道具とは考えていないのであり、また憲法法治主義上も同様であるという点について、十分な注意がなされていないとの結論を得た。 以上の調査から、これまで学説対実務という対立枠組みではうまく突破できなかった実務のマインドが、立法がなされたことにより大きく変化しつつあること、裁判官がかなり柔軟に、目的志向で(裁判救済の充実)、行政訴訟のあり方を考え始めるという影響をもったこと、他方で、研究者による行政訴訟理論研究のほうがむしろ古式騒然となりつつあるという暫定的結論を得た。
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