研究概要 |
今期の研究内容は,制度改革を機縁として,伝統的な解釈論的法体系(doctrinal analysis, Rechtsdogmatik)に,どのような実践的要請が突きつけられているのかを明らかにすることである。近年の裁判所(最高裁を中心とする)に生じたスタンスの変化を後付けづけ,制度改革がなされた箇所とそうでない箇所の違いが如実に生じていることを確認した。 第1に,行政訴訟の本案審理面について検討を加え,行政庁における裁量的判断の合理性に対する司法審査の強化の様子を,平成の最高裁判決を素材に理論枠組みを作りながら跡づけた。この結果,行政処分の裁量(つまり具体的事案における裁量)の合理性審査について,裁判所はかなりの踏み込みを見せており,とりわけ「当該事案において考慮(重視)されるべき要素が考慮(重視)されていない」という形で,厳しい審査をおこなう頻度が増えているのに対し,裁量基準や委任立法における行政裁量の合理性については,どのような審査をしたのかが不明というほどであるほどの違いがあることがわかった。司法制度改革は,本案審理についてさほどの踏み込みをしなかったのであるが,その反映である可能性がある。 第2に,訴訟要件面では,まさに司法制度改革の行政訴訟検討会が中心的課題のひとつとして取り上げたところである。そのうちの,処分性の拡大については,平成20年の大法廷判決(昭和37年の青写真大法廷判決を変更したもの)を素材にとりあげ,「司法権」のコアとフリンジの同心円構造を用いて,その変化を説明した。フリンジ部分の拡大が求められたところであり,その方向で裁判所が動いていることがわかる。 第3に,本研究成果の教育次元への応用として,「公法系訴訟実務の基礎」という書物を,実務家と共同執筆した。この書物において,上記理論的理解を,実務家養成の次元において展開するべく,具体的設例を用いて説明した。
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