研究概要 |
最終年度である本年は,本研究で新たに得られた行政法理論アプローチを,具体例に則して実証した。そのアプローチとは,1990年代から2000年代に成果を挙げた行政改革,地方分権改革および司法制度改革などによって,現在きわめて多様な行政法制度が成立していることを説明するため,日本の統治システムを,政府(統治機構)と社会(市場・市民)と社会的諸集団(自治的団体など)の3つの場におけるガバナンス・ミックスとして捉える方法である。政府(統治機構)のみで社会統治をすることは不可能であり,市場や自治的集団の力を借りて,それぞれがもつガバナンス力を利用する必要があるというアイデアにたつものである。 このアプローチは,19世紀から20世紀前半にかけては,行政国家化に伴う「政府権力の濫用」への警戒が行政法発展の原動力であったのに対し,20世紀後半から21世紀にかけては,むしろ,行政国家が十分な成果を挙げておらず,「政府能力の不信」が課題となっていることを示そうとするものである。 この観点から,行政国家における司法の新たな役割(新たな法治主義)について,実質的証拠法則,処分性,確認訴訟などの場面を素材に,示唆した。 他方,上記アプローチ方法は,公法分野における伝統的な法解釈論(ドグマーティク,ドクトリン分析)と,経済学・政治学の視点からする理論分析(モデルを構築して説明し,可能であればデータで実証する)との橋渡しをするための必須の道具立てであることから,この観点から再整理した行政法法理について,法の経済学的,統計学的,政治学的分析を,法律研究者にとって理解可能な形で導入するための準備作業として,諸外国における先行例の検討を始めた。
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