本研究は、ドイツ法治国家論の基本原理としで法的な内実を発展させてきた比例原則に関する理論的な研究を踏まえ、「安全」維持目的の国家行為への適用を意識した場合に必要になる比例原則の変容を研究対象とし、21世紀の現実的な要請に耐えうる比例原則の体系的理論の構築を目指す。その際、A:法治国家原理から派生する比例原則の理論的研究、B:EU法における比例原則の発展に関する実務動向研究、C:ドイツ憲法判例上の治安目的規制に関わる違憲性審査の比較法的研究、の三つの柱を軸に進められている。 このうち、Aについては07年度中にB・Cを展開するのに必要な認識に達し、Bについても07年度中に性差別を受けない権利に関する分析を完成させた。Cについては、今年度、ドイツ連邦憲法裁判所の判例動向に関する研究論文を完成させるとともに(後掲、「リスク社会・予防原則・比例原則」)、これらの成果を踏まえて、立法過程における比例原則の意義を再評価する論文を完成させた(後掲「憲法構造における立法の位置づけと立法学の役割」)。 これらの成果を踏まえて、「安全」目的の基本権規制が日本で行われる際に、それが過度の権利侵害を惹起しないよう司法的に統制する具体的な基準が明らかになりつつある。すなわち、国家による規制が実害発生の前段階に重点を置きつつある現在の「予防原則」的思考枠組の下、比例原則の空洞化が進行しているが、にもかかわらず比例原則を適用した違憲立法審査が果たすべき機能は増大しつつあり、裁判所が比例原則を適用する前提として、立法段階において規制目的に関する十分な合意を調達し、それを明示することが何よりも必要であることが認識された。
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