二年目の本年度も、先制的自衛権論新展開の契機となったアメリカ政府の「国家安全保障戦略」にいう先制行動論について検討を継続し、とりわけ同戦略に対する各国の反応を中心に検討を行った。主要な検討対象は国連安保理および国連総会における各国のステートメントや、各国の政府関連HPに掲載されている各種文書であった。それらの一次資料検討の補助的な手段として、内外の関連論考についても検討を行った。さらに、本年も、別件で訪問したワシントンにおいて、国務省の法務部高官にインタビューを行うことによって多くの疑問点を解明することができた。 以上の検討の結果、先制行動論に対する諸国の反応が、必ずしも一定の方向を向いているわけではないことが判明した。全体としては、伝統的な先制的自衛権の範囲を超える形で主張される先制行動論に対しては、否定的な反応が優越的であったが、最近になって比較的大規模なテロを経験した国、たとえばロシア、インド、オーストラリアなどでは、先制行動論を支持する傾向が見られた。 次年度は、こういった各国の反応を、イラク戦争などの具体的な事態との関連を含めてさらに詳細に検討することによって、先制行動論をとりまく国際法状況について一定の結論を得ることにしたい。同時に、「国家安全保障戦略」に含まれるもう一つの重要な論点である非国家主体と自衛権の関係という問題についても、引き続き最近の国際判例を中心に検討を行うことにしたい。
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