19年度の研究実施計画に従い、文献調査を中心として研究課題の検討を進めた。 具体的には、1、条約機関の先例の収集と分析、2、日本の裁判例の収集と分析及び3、若干の諸外国の動向の把握及び関係文献の収集、である。 1、については、主として、欧州人権裁判所、規約人権委員会及び拷問禁止委員会の判決及び「見解」を収集し、2、については、公式判例集及び公刊されている判例誌に掲載されている裁判例、並びにインターネット(最高裁ホームページなど)から収集可能な裁判例を収集した。また、弁護士から若干の判例集未登載の裁判例を得た。1、及び2、については、その内容を検討し、入国、在留及び強制的出国(犯罪人引渡し及び退去強制)の3場面に分けて整理し、論点抽出を行った。さらに、3、については、従来から関心をもっていたカナダ及びオーストラリアを中心に、主として両国の関係ホームページから裁判例・決定例などの収集を行ったほか、その他の関係文献を収集した。 なお、18年5月から6月中旬まで、及び7月から8月中旬までの12週間にわたり、国連の「国際法委員会」に山田中正委員の補佐のため外務省からジュネーヴに派遣され、同委員会の検討課題のひとつである「外国人の追放」に関し現地で関係文書の収集と分析にあたった。 次に、収集した文献、特に日本の裁判例などの一部について、効率的な研究遂行のために電子データ化した。ただし、匿名化が必要な裁判例や著作権の関係などで公開はしていない。 今年度の研究成果の一部は「11」に記載した論文及び図書として公表したが、欧州人権裁判所が子どもの最善利益の観点から不法滞在者に対して滞在先の国における居住の継続を認めるべき旨を判示した重要な先例を見出す(雑誌欄に掲載した「ロドリゲスザシルバ対オランダ事件」を参照。)など、いくつかの新たな知見を得た。来年度には、本年度の研究成果を踏まえて、その集大成を行う予定である。
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