本研究は、近時の海上犯罪に関する国際法上の対応を検討し、それらの対応が法的に機能分化していることと、法的な問題点を明らかにした。 公海上の外国船舶に対する干渉行為を認める、問題となる諸条約と対象となる原因行為は、国連海洋法条約上の、(1)海賊行為、(2)奴隷の輸送、(3)国旗濫用、(4)公海上からの許可を得ていない放送、(5)無国籍船、に加えて、さらに注目されるのは、近時の一般多数国間諸条約であり、(1)1988年「麻薬及び向精神薬の不正取引条約」(以下、麻薬新条約とする)、(2)2000年「移民密入国防止議定書」、(3)2005年「海洋航行不法行為防止条約」(SUA)改正議定書、(4)1995年「国連公海漁業協定」、と、一定の要件の下で干渉行為を認める諸条約が相次いで採択されたことである。 これらの規定を素材として、公海上の外国船舶に対する干渉行為の基準と条件を法的に分析することを試みた。このような干渉の基準と条件として、具体的には、(1)実体法上の、原因行為の性質分類、(2)手続法上の、執り得る措置(態様と程度の特定)、に分けて、それぞれ分析を加えた。(1)原因行為の性質分類については、構成要件と作用分類と法益分類が問題となり、前者は、関係国際法の解釈問題であり、後者は、「海上犯罪型」と、「非海上犯罪型」の二種類の作用分化が生じている。国際法上の取締法益に関して、ここでは、沿岸国ないし特定国の法益(具体的には、例えば客観的属地主義や保護主義等)といった自国法益か、国際共同体の法益(普遍主義)かといった分類が問題となる。(2)手続法上の、執り得る措置については、執り得る措置の態様と程度の特定と執り得る措置に関して特に問題となる点を明らかにした。
|