最終年度である2008年度は行政制裁金や課徴金といった行政上の金銭的サンクションを構造志向的措置(企業分割)や行為志向的措置(排除措置命令)と比較しながら、金銭的サンクションの特徴を検討した。その結果、金銭的サンクションは構造指向的レメディや行為指向的レメディに比べて執行が相対的に容易であり、特に反トラスト当局や裁判所による継続的監視が不要である点に特徴があること、しかし、金銭的サンクションは、それ自体としては市場支配力の弊害に対応するものではないから、構造指向的レメディ、行為指向的レメディと組合せ、補完的に用いる必要があることが明らかとなった。また、2008年3月に課徴金の賦課対象を拡大することを内容とする独占禁止法の改正法案が国会に提出されたことから、特に排除型私的独占に対する課徴金制度の新設について検討した。法案には業種別の算定率の採用、短期的利潤を犠牲にする可能性がある価格的排除行為をも対象行為に含めることなど、利得への固執性については維持されている側面と緩和された側面とが認められるが、全体としてはやや後者の側面が強いように思われる。また法案は供給に係る売上高のみを算定の基礎とすることによって供給を受ける場面(購入)における排除は除外すること、「当該行為に係る一定の取引分野において当該事業者が供給した供給した商品又は役務」、「当該他の事業者が当該商品又は役務を供給するために必要な商品又は役務」などについて解釈上詰めるべき点が残されていることが指摘される必要があるほか、私的独占、不当な取引制限、不公正な取引方法のいずれに該当するとされるか(私的独占については排除型か支配型か)によって、課徴金が賦課されるか、何パーセントの算定率となるかが異なることとなる点が重要である。要旨以上のような知見が得られた。
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