本研究の成果としては、第1に、ヨーロッパレヴェルでの法人処罰の現状を明らかにしたことにある。EU法の下で、例えば、フランスは、1992年刑法典で法人の刑事責任を初めて認めたが、その後、いっそう、プラグマティックな観点から、わが国のように一定の犯罪について特別規定がある場合にのみ法人処罰を認める立法を2004年に改正し、自然人と同様に、法人もすべての犯罪について処罰しうることとされた。同様の立法例として、オーストリアがあり、EU内では法人処罰を強化する方向が趨勢となっている。他方、ドイツは、刑法典ではなく秩序違反法で法人に制裁を加えるが、しかし、問題はその法的性質である。従来は、秩序違反法は行政罰であるかのような紹介がされてきたが、近時は、秩序違反法の複雑化に伴い、そのような理解にも疑問がもたれ、刑事制裁であることを認める見解が増えてきている。そして、刑罰論の発展を背景にして、ドイツではむしろ法人に対する刑罰を否定する見解が優勢となってきている。いわば、全ヨーロッパとは逆行する流れである。本研究では、この間の議論を対象とし、ドイツにおける法人処罰否定説の根底には、予防的思考ではなく、ドイツ観念論を背景とした、責任概念の純刑法化の思考があることを明らかにした。そして、議論状況として、現在のような秩序違反法による過料(反則金)という、「責任概念」に基づかない刑事制裁を維持する見解、「責任概念」にも非難にも基づかない保安処分による制裁を提案する見解、EU指令のように端的に刑事罰を認める見解を検討した。
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