本研究は、預金者や消費者のみならず、金融機関、信販会社に多大な被害を与える、キャッシュカード、クレジットカード等、経済取引に用いられるさまざまなカードの不正使用に対して、社会全体として、どのようにこの問題に取り組めばよいかを視野に入れて、あるべき刑事法的対応を示すことを試みることを目的とするが、研究初年度である本年度は、以下のような作業を行った。 第1に、刑罰が他の社会統制手段との関係でどのような意義をもつべきかについて検討を加えた。例えば、独占禁止法においては、課徴金が実際上刑罰に近い量をもち、刑罰の代替的機能をもつようになってきたことは、実定法上も認識されるに至っているが、このことは、安易に刑罰に依拠することを阻むものであり、刑罰における謙抑性という観点からは、基本的には望ましいものと評価しうる。 第2に、カード不正使用に関して、(1)カードシステムはどのようなものであるか、(2)実務上どのような事象が問題とされているか、実務家がどのように考えているかについての情報収集を行い、これを基にしてカード取引をめぐる財産犯理論の考察を行った。とりわけ最近の判例理論には問題があることがわかった。 第3に、外国におけるカード不正使用問題についての刑事法的対応について検討を加えた。カードシステムは、先進各国と共通である部分が多いながらも、その対応には、違いがみられた。
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