本研究は、預金者や消費者のみならず、金融機関、信販会社に多大な被害を与える、キャッシュカード、クレジットカード等、経済取引に用いられるさまざまなカードの不正使用に対して、社会全体として、どのようにこの問題に取り組めばよいかを視野に入れて、あるべき刑事法的対応を示すことを試みることを目的とするが、研究2年度目である本年度は、以下のような作業を行った。 1 わが国の刑事立法の近時の動向について検討を加えた。近年制定された、支払用カード電磁的記録に関する罪、及び、平成17年に制定された、偽造カード等及び盗難カード等を用いて行われる不正な機械式預貯金払戻し等からの預貯金者の保護等に関する法律について、とりわけ侵害される利益はどのようなものであり、侵害する行為はどのようなものであるのかを検討した。とくに、前者については、実際の適用は、問題に対するやや一過性の対応にとどまるかのような傾向もみられ、本質にさかのぼった考察があらためて必要であることがうかがわれた。 2 さらに、カード不正使用において問題となる事象の類型化を、前年度において検討を行った財産犯類型だけでなく、偽造類型、システム機能侵害類型等について問題を抽出するとともに、各類型相互の関係について検討を行った。 3 刑事法によって保護されるべき利益は何かについての検討を行った。これまでの個人的法益や社会的法益という法益の分類では必ずしも割り切れない、しかし、一定の実質をもつ利益を観念することの必要性が認められた。
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