本研究は、預金者や消費者のみならず、金融機関、信販会社に多大な被害を与える、キャッシュカード、クレジットカード等、経済取引に用いられるさまざまなカードの不正使用に対して、社会全体として、どのようにこの問題に取り組めばよいかを視野に入れて、あるべき刑事法的対応を示すことを試みることを目的とするが、研究3年度目である本年度は、以下のような作業を行った。 1研究の最終年度である本年度は、平成18年度および同19年度に行った作業を踏まえて、さまざまな事象類型に応じた刑事法的対応のあり方を探究した。 2その際、とりわけ以下の観点に留意して作業を行った。その第1として、本研究に関する研究計画調書を提出した時期から約3年が経過しているが、この間にも、詐欺罪を中心とする財産犯に関して、重要な最高裁判例が複数出された。財産犯は、カードの不正使用に対する刑事法的対応の中核となる部分であるため、このような判例の動向をふまえてあらためて、財産犯理論についての考察を行った。その結果、とりわけ詐欺罪については、本来有するべき個人的法益の保護という意義・機能から乖離する傾向が顕著であり、適正な限界づけを行うことが急務であることが判明した。 3第2として、刑事法によって保護されるべき利益は何か、さらには刑罰法規の全体構造はどのようなものかという点に着目して、近年立方されたカード犯罪に関する法令の解釈について検討した。構成要件にあいまいな部分や、これまでとは異なる規定を行うものがあるため、新しい事態に対応するための立法の際には、類型の構成の仕方等について十分な配慮が必要であることが認められた。
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