本研究は、1980年代に起きた少年犯罪の被害者に関して、被害者の遺族とりわけ親への聞き取り調査を行い、それに考察を加えたものである。また、国内の研究対象と可能な限り近似した対照群として、アメリカ合衆国において子どもを殺された親に対する聞き取り調査を行うとともに、犯罪被害者に対する支援体制についても調査した。 わが国での聞き取り調査としては、愛媛、神奈川、福岡の各県でそれぞれ1件ずつ、愛知県で2件行った。約20年という歳月が経過したことによって、現在の生活は、犯罪被害者という枠組のみによっては捉ええない、加齢、疾病などの要因が大きな影響を与えていることが発見された。 なお、加害少年の一人に第一審で死刑判決が下りた愛知の事件については、2名の被害者の遺族に対する深いインタビューを行った。また、この事件の遺族による損害賠償請求に携わった2名の弁護士に対する聞き取り調査も行った。1980年代当時としては被害者側に弁護士が付くのは珍しいケースであり、非常に有益な知見が得られた。 海外調査としては、アメリカ合衆国の子どもを殺された親の会に出席して聞き取り調査を行った。アメリカ合衆国と日本とでは、犯罪に関する状況が異なっており、犯罪被害者の遺族に対する支援も異ならざるをえないことが発見された。例えばアメリカ合衆国では殺人の検挙率が低く、犯人が逮捕されない殺人事件の被害者の遺族へのケアが大きな課題となっている。また、加害者に死刑が科され、たとえその処刑を被害者の遺族が目撃したとしても、おそらく被害者の遺族の悲嘆は決して収まることはないと推測されることが判明した。 さらにアメリカ合衆国の犯罪被害者支援団体の大会に参加することによって、被害者の団体の実情、被害者の課題への配慮や取り組みについて調査し、わが国の犯罪被害者へのサポート体制についての示唆を得た。
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