本研究は、証券の口座振替決済システムに関する法律構成について、従来の有体物である証券に適用されてきた物権法理、有価証券法理を継承することの疑問を出発点とし、これに代わる新たな法律構成の提示を目的とする。また、口座振替による金銭の取扱いについても、近時疑問が提示されてきていることに照らし、証券との類似性を踏まえ、従来の取扱いに代わる新たな法的枠組みの構築を指向する。 本年度は、従来、物権法理、有価証券法理の適用によって確立されていた投資者の権利を継承し、かつ口座振替システムの仕組みに整合的な法律構成を模索するため、アメリカ統一商法典第8編の再検討を行った。アメリカ統一商法典第8編は、わが国の「社債、株式等の振替に関する法律」とは対極の法律構成を基礎とするものとして扱われてきており、わが国における資金決済の法律構成に類似するとされている。しかしそのアプローチは、口座振替システムの実体に即しつつ、口座管理機関に投資家に対する一定の義務を課すという方式により、従来と同様の投資家の権利を実現するものであることが確認できた。さらには、その延長線上で資金決済の法律構成についても整理が可能であることも明らかにした。 こうした検討を踏まえつつ、モノとしての有価証券の移転および善意取得とは異なる口座振替システムにおける権利移転の理論を模索した。それは、わが国における資金決済と同様、口座記録の増額に基づく権利の成立に基礎を置きつつ、一定の場合に物権的な返還請求権を認めることができる理論として信託法理の適用を示唆するものであり、社債、株式等の振替に関する法律の規定の解釈としても可能であることを提示した。
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