本研究は、証券の口座振替決済システムに関する法律構成について、従来の有体物である証券に適用されてきた物権法理、有価証券法理を継承することに対する疑問を出発点とし、これに代わる新たな法律構成の提示を目的とするものである。さらに、口座振替による預金の取扱いについても、近時疑問が提示されてきていることに照らし、証券との類似性に着目しつつ再検討し、それを踏まえた上で口座振替システムに関する統一的な法律構成を模索する。 本年度は、預金の取扱い、とりわけ預金の帰属に関する論点を中心に研究を進めた。誤振込に関する平成8年4月26日判決は、口座記帳により預金債権が成立するとしたが、その後の事案において必ずしもその結論に従った判断がなされているわけではない。またそもそも本判決の結論自体にも議論の多いところである。そこでまず、預金の帰属に関する客観説および主観説をそれらの背景にある事情を考慮しながら整理をした上で、金融機関の立場を顧慮しつつ金融機関にとっての口座記録の意義を明らかにした。その上で、口座記帳による預金成立の意義について再検討し、さまざまな事案における妥当な解決のために、まず金融機関の預金に対する権利についてはその主観的態様に基づく場合分けをした。また誤振込人の誤振込金に対する返還請求権については、「優先権」の付与の是非について、英米法の擬制信託の理論の分析を通して検討した。
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