研究概要 |
昨年度は治療行為における同意が問題となった判例を収集、整理して検討し,医療行為に対する同意能力が問題となる場面を明確化する作業を行ったが,これに引き続き,今年度は,医療行為に対する同意に必要な同意能力と法律行為における意思能力との関係を,意思能力に関する学説を整理する作業を通じて検討した。これに先だって,まず,医療紛争を解決するための法的構成の面では,契約構成を採用するときに法律行為の意思能力との直接的な関係が生じるが,しかし診療契約成立についての意思能力があっても,重大な医的侵襲に際してはその都度の同意が必要になるため,契約成立における意思能力とは別に医療行為の同意能力を問題にせざるを得ず,従って不法行為構成か契約構成かの法律構成の選択は直接には同意能力の問題に影響しないことを確認した。 そして,民法学説の中で,初期の岡松説とその後の通説的な理解を整理した後に,機能面から意思能力を捉える学説として,末弘,薬師寺,舟橋,須永,中舎および熊谷の諸学説を取り上げて検討した。さらに,精神医学の見解として,意思能力に関する理解が不十分であった時期を概観してから,これを克服した西山説とその後の五十嵐説を整理して検討した。最後に,医療同意能力を扱う唯一の民法学説として新美説を取り上げて議論の出発点に位置づけて,法定代理に関する私見の立場を加味して,意思能力論と医療同意能力との関係を検討した。以上の作業を,「意思能力と医療同意能力」群馬大学社会情報学部研究論集15巻にまとめた。
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