医療行為に対する同意能力の内容を、意思能力論の観点から検討することを目的とし、平成18年度には、治療行為について同意能力の有無が実際に問題となる場面として、精神医療における入院同意の問題、および、一般医療において患者本人以外の者に対する医師の説明義務が問題とされた諸判決を検討した。また、医療同意無能力が認定された場合に次に問題となる同意の代行を検討する際に出発点になる素材として、親権者の法定代理権の範囲を検討した。さらに、意思能力の有無に関する法的評価に関わる素材として、民事責任能力と親権者の監督責任を検討した。 平成19年度には、意思能力に関する従来の一般的な理解、および、機能面から意思能力を捉える近時の有力な民法学説を整理し、さらに、精神医学上の意思能力の理解を検討したうえで、意思能力と医療同意能力の関係を検討した。この結果として、機能面から意思能力を捉える民法学説と同じ枠で医療同意能力を位置づけることができるが、まさに両者の機能上の差異から、別異に論じる必要性があることを明らかにした。さらに、親権および法定代理権の観点から、同意無能力と同意代行の問題につき法形式上の必要性と実質的な医療のあり方を混同すべきでないことを主張した。
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