本年度は、ドイツにおいて現行のドイツ保険契約法172条2項による既契約の保険約款変更の適用範囲、変更手続の適法性、変更内容の妥当性、および民法典306条2項による裁判官の補充的契約解釈による既契約保険約款の内容変更について、極めて重要な連邦通常裁判所判決が下され、かっこの判決の内容がドイツ保険契約法改正法案と双方で影響を及ぼしあっている事実が明らかになったため、連邦通常裁判所2005年10月12日判決、連邦裁判所2005年7月26日判決、ならびにドイツ保険契約法の既契約保険約款変更要件、変更手続に関する法案の検討を行った。その研究成果として、2006年9月26日の保険学会関東部会で報告を行うとともに、保険学会の学会誌である保険学雑誌595号に論文を発表した。この研究を基礎として来年度以降は、特に保険契約者保護の観点から中立性に欠けるおそれがあるとされた保険監督法12b条の監査人による変更内容の適切性審査が、改正法案から削除されたことによる影響等を引き続き検討し、その成果をまとめる予定である。またドイツ保険契約法の全体像との関連を基礎から認識するために、藤岡康宏先生監訳、藤原正則先生との共訳で、ヴァイヤース=ヴァントの『保険契約法』を翻訳した。ヴァントは、既契約の保険契約約款変更に関する論文を多数発表しており、上記の判決でも引用された学者である。 日本の実態調査に関しては、健康保険法等改正による平成18年10月1日の高度先進医療給付に関する約款の内容変更、および告知義務違反に因果関係要件を含める改正等の検証を行ったが、来年度以降は、不払い問題を契機に監督上要請された「わかりやすい約款」にするための変更内容に関する調査、保険法改正等に伴う変更等も視野に入れた調査を継続する予定である。
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