本年度は、既契約約款の変更根拠に関する実態調査を行う中で、特に保険法立法過程において重要課題とされた、既契約の解約返戻金の規律のあり方、約款規制の必要性、その変更手続の実効性確保の必要性について、集中的に研究を行った。平成19年9月に生命保険論集で公表した「解約返戻金の規律に関する一考察」においては、既契約の普通保険約款で規定されている解約返戻金に関する現行法上の規律状態を検討し、現行商法に規定がない中で、消費者契約法第9条、第10条、保険業法の諸規律における規制の有効性及びその限界を明らかにした。そのうえで、法制審議会保険法部会での検討内容及び検討課題を詳細に分析し、先行するドイツでの法改正及び裁判例から導き出され得る立法のありようを提示した。 さらに平成19年9月に、ベルリン自由大学法学部においてプレルス教授の下で、既契約の保険約款の内容規制の変更要件に関するドイツの判例・学説を研究し、その研究成果として、平成19年10月28日の日本保険学会全国大会において、「解約返戻金の約款規制」というテーマで個別報告を行った。前記公表論文が主として、今後の立法論のあり方、保険監督法との共同規律の方向性を探求したのに対し、本報告においては、現行保険実務で使用されている既契約保険約款の解約返戻金に関する規定及びこれに関連する情報提供方法を詳細に調査した成果を踏まえ、旧ドイツ保険契約法第172条により、適切と認められた解約返戻金の既契約保険約款の変更が、再び無効とされた事案との比較検証を行った。本報告の内容は、平成20年度に新たな研究成果を反映したうえで、論文として公表する予定である。
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