改正区分所有法は、建替え決議にいたる区分所有者間の手続的権利の保障によって、多数決原理による区分所有者間の利害の調整をめざしているが、さらに、マンションの建替え決議後、区分所有建物が再建・建替えまでの団体形成・合意形成のプロセスを含めて、どのような団体で、いかなる範囲で、いかに団体の意思形成をさせるのかが課題となる。 団地の建替えやマンション群の再建事業では、敷地所有権の共有者と棟別のマンションの区分所有者の範囲は一致しておらず、区分所有権の内在的性質(区分所有権の実質は建物の一部であり、一棟の建物を区分して独立した所有権の客体として法的に取り扱っているにすぎない)と説明するだけでは、利害関係を調整できない。 平成18年度は、以下の方法により、マンション一棟建替えを素材として、単純モデルの理論的構築のための作業を行った。 第1に、マンション一棟建替えについて、マンションの建替え決議後、区分所有建物が再建・建替えまでの団体形成・合意形成のプロセスについて一応の整理を試みた。 第2に、区分所有関係を構成する敷地利用権・区分所有権・共用部分相互の関係と区分所有関係における団体の法的関係について検討した。この過程で、いわゆる多数決決議によって権利関係する手法には、その正当化の根拠に質が異なる問題が内在していることが明らかとなった。 そこで、共用部分の管理ないし処分の延長で議論が可能な問題と、管理規約の延長問題として議論ができる問題と、共同生活を維持するという観点から専有部分の権利関係に影響を与えることができる問題、それぞれについて多数決原理を正当化する根拠を明らかにすることした。マンション一棟建替えの場合でも、これらの問題が内包されており、上記の分析がマンションの建替え決議後、区分所有建物が再建・建替えまでの団体形成・合意形成のプロセスの検討にも有益であると判断したためである。 第3に、比較法的には、日本と同様に、建物を土地とは独立した不動産とする制度を採用し、近年、マンションの大規模な建替え事業に着手している韓国について、2005年5月26日改正があった「集合建物の所有および管理に関する法律」について翻訳作業を行い、その制度の概要を明らかにしたが、なお、日本との比較は条文との比較に留まっており、まだ公表できる段階にない。
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