他人のための事務処理制度には、民法上の典型契約である委任・準委任、雇用、請負、制限行為能力者のための財産管理、遺言執行、代理、法人の代表、さらには信託などさまざまなものが存在し、それぞれにつ固有の規定や規範が認められるが、これらのうちのいくつかが1つの社会関係において、当事者が意識しないまま複数存在することがある。本研究は、そういった場合に認められるべき法律関係の全体像を明らかにしようとするものである。 この目的を達するために、計画初年度の今年度は、主として次の3つの作業をおこなった。 (1)事務処理制度が現実に競合する場合を捉え、そこで生じる問題点を的確に把握するために、他人のための事務処理制度の競合が問題となったと考えられる判決例を洗い出した。もっとも、この作業は非常に膨大にのぼるため、来年度で完了を見なかったため、来年度継続する。 (2)信託法の改正法が成立したため、その規定内容を特に委任・代理・代表と比較しつつ分析した。その結果として、新信託法において、信託受託者の権限と義務が、受任者・代理人・代表者と相当異なって構成されていることが明らかになった。次年度は、この違いの由来がどこにあるのかを重点的に分析・検討したい。 (3)イギリスに出張し、当地における信託と委任について調査した。イギリス法はわが国とは体系が異なるために、直ちに比較法的示唆が得られたわけではないが、伝統的に民事の信託と委任が規制及び考察の中心とされてきた当地においても、商事取引を重視した立法と議論の展開がみられることを確認した。
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