大都市圏とそれ以外の地方とでは裁判外紛争解決(ADR)をめぐる環境も意識も異なるように思われることから、本研究は、地方の実情を調査しADRの現状と課題を明らかにしようとしてきた。とりわけ、「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」(平成16年法律第151号)[以下、ADR法という。]が平成19年4月1同に施行されて民間の団体等が提供する和解の仲介サービスについて公的認証制度が新設され、同時にこの認証を受けたADRサービスにはサービスの有償提供や時効中断効のような法的効果の付与等が可能になり、ADRをとりまく環境には著しい変化があったことから、同法施行後の変化に注目して調査を続けてきた。ところが、ADR法による公的認証取得に関する関心が大いに高まった一方で、認証取得に向けた具体的な動きは依然として鈍い。本年度の調査では、同法施行後1年を経過したことから、認証取得に向けた活動が本格化することが期待されたが、年末になっても同法による認証サービスは24にとどまっている。とくに、本研究が対象としている大都市圏以外の地域においては、愛媛県と沖縄県においてそれぞれ土地境界紛争を対象とするサービスと労働紛争を対象とするサービスの2つが提供されているにすぎない。有効なデータを取得する方法として関係団体に対する悉皆調査を実施するのは時期尚早と判断せざるをえなかったことから、各士業団体を中心に聴取調査を行なった。具体的なADR手続の設計が重要なのはもちろんであるが、現状ではADR法6条が求める弁護士との連携体制や取扱分野の絞込みにおいて多くの課題が生じているようにみえる。認証取得による経済的メリットがあまりないことも障害となっている。今後は、認証を取得したサービスに注目して調査することが重要と考えられる。ADR法が民事紛争解決サービスの地域間格差にどのような影響を及ぼすのか注目される。
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