研究概要 |
平成18年度の研究は,まず,事例研究から着手した。すなわち,東京高判平成18・1・18金判1234号17頁の裁判例である。生命保険金受取人変更権については,相手方のない一方的な意思表示である形成権であるとされている(判例)。ところが,上記裁判例の事案によれば,定期付終身保険約款には,保険金受取人指定を変更するには,保険契約者は保険会杜の定める書類を提出し保険証券に裏書を受けることを要するという条項が定めてあったところ,保険金受取人の変更手続は,保険会社に対する保険証券等の書類が提出されておらず,保険証券の裏書もされていなかった。このような事案を観察すると,見方によれば,生命保険金受取人変更権のあり方について一定を枠をはめ制限していると解する余地もある。そこで,平成18年度の秋に,本事例研究を行い,生命保険金受取人変更権に関する文献を集めあるいは複写し読み込み,九州大学産業法研究会において報告した。研究会の場において,さまざまな批判を受け貴重な示唆を受けた。 思うに,生命保険金受取人変更権と保険会社に対する対抗要件との関係も問題となったが,モラルハザード防止策として対抗要件が必要であるならば,対抗要件を厳格に求めることもあり得るだろう。 しかし問題は,生命保険金受取人変更権自体に一定の枠をはめ制限しようとするあり方を選択した場合に生じる。すなわち,保険金受取人変更権自体に制限を加える場合,遺言による保険金受取人変更を行う途が閉ざされる可能性があるという点にある。 今後は,生命保険金受取人変更権に対する制限を加えた場合に影響し得る問題を調査し生命保険受領権買取契約全体に着目し整合性のある結論を導きたいと考えている。
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