(1)本年度は、日本の家庭事件の紛争解決システムとして中心的な役割を果たしている家庭裁判所に焦点を当てて、研究を行った。家庭事件について家庭裁判所が関与する場合には、人事訴訟・家事調停・家事審判の3類型があるが、そのうち、人事訴訟と家事審判についての考察を行った。 (2)人事訴訟は、民事訴訟の特別な類型の一つであるが、通常民事訴訟と異なり、婚姻関係・親子関係といった基本的身分法秩序の形成・確認を行うため、実体的真実に合致することが要請されている。そのため、人事訴訟においては、通常民事訴訟とは異なった規律のもとに審理判断される。人事訴訟がいかなる点において通常民事訴訟とは異なるのかについて、処分権主義の適用、弁論主義の適用、判決の効力についての特則、公開停止の制度等の観点から考察を進め、「人事訴訟の論点」という論稿にまとめることができた。 (3)家事審判は、非訟手続であるため、訴訟手続とは異なり、家庭裁判所が後見的立場から審理判断を行うという職権主義的な手続であると理解されてきた。しかしながら、家事審判手続においても、事件の性質に反しない限り、利害関係を有する当事者に対して手続に関与する機会を与える等の取扱いをする必要性が以前から指摘されてきた(当事者主義的運用)。「民事訴訟手続の審理原則を家事審判手続にも可能な限り及ぼすことにより、手続の透明性・公平性をもたらすことができる」と考え、民事訴訟と同様に、当事者の申立てが一定の範囲で裁判所を拘束するとの結論を導き出した。具体的な事件において、裁判所をどのように拘束するかについては、「家事審判手続と『審判物概念』」の論稿において考察した。 (4)家庭裁判所以外の機関の特質を活かした事件に解決については、なお、検討すべき課題が残されており、2009年度以降の研究課題とする。
|