わが国において、家庭裁判所の「後見性」がもっともよく現れると考えられる家事調停に焦点をあて、実務におけるその運用の実態、審判や訴訟に対する位置づけ等につき、東京家庭裁判所、大阪家庭裁判所を中心に調査、研究した。家事調停委員は、法学専門教育を受けたことを任命の必須要件とするものではないが、関係者との面談や聞き取り調査を通じて、上記両家庭裁判所において実施されている調停委員を主体とした各種研究会、講演会が、法的な予備知識を持たない調停委員の研鑽のために大きな役割を果たし、調停スキルの向上と調停事件における当事者の合意形成の妥当性確保のために有意義であるとの印象を得た。平成19年度は、調停委員会を構成する家事審判官の視点から、当事者との関わり方や調停委員との連携、解決案の提示等について検討したいと考えている。 比較法研究として、平成18年度は、まずドイツの家庭裁判所における離婚事件・親子事件の処理につき、文献や裁判資料をもとに考察した。ドイツでは、家庭裁判所の裁判官が積極的に指揮権を行使して、当事者やその間の子の実情の把握等を行う状況が見られ、それが、実質的にわが国の調停に近い事件処理を可能にしていると思われる。 また、春期休業期間を利用し、アメリカのペンシルバニア大学を拠点として、統一家庭裁判所運動と弁護士によるカウンセリングの技術に関する調査、資料収集を実施した。アメリカでも、家事事件処理に関して裁判官が積極的に活動するが、そこでの役割はドイツとの比較においても格段に広範であり、法律問題にとどまらない生活全体に対する家族再生のコーディネーターといった印象を与える。平成19年度は、両国の法制度、実務上の課題についてさらに検証するとともに、わが国の家庭裁判所の後見的機能のあり方とその実現について、具体的提言を行いたいと考えている。
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