本研究は、従来わが国において一般的に認識されてきた「社会的良識」の反映に基づく家庭裁判所の後見的機能という概念に関し、ドイツ、アメリカの法制度、裁判所実務、さらにそれらを取り巻く社会的要因の比較究を通じて、新たな視点を導き、当事者の自律的解決に向けて、婚姻家族の解体と関係再構築の過程で家庭裁判所の果たす役割を考察するものである。 本年度は、アメリカを中心に、ドイツ、日本の家事調停について研究を進めた。わが国における家事調停では、専門知識を有する弁護士、大学教員とともに、民間の有識者が調停委員として多数活動する。そして、選任の段階で必ずしも法律知識のあることを求められないこれら一般調停委員も、就任後、家庭裁判所内外での研修で親族法、相続法関係の知識を習得し、調停活動に生かす仕組みが各地の裁判所で設けられている。一方、アメリカでは、州によって差異はあるものの、調停が裁判所外の制度として位置づけられ、調停委員の構成もJ.D.や弁護士といった法学専門教育を受けた者が主要な部分をなしている場合が多く見られる。そのため、調停委員の訓練も法律知識の習得ではなく、Mediatorとしてのコミュニケーション能力、当事者のニーズの的確な把握に重点が置かれている。わが国の家事調停に相当する機能は、アメリカのFamily Court Movementからもうかがえるように家庭裁判所の裁判官が中心となり、当事者への積極的な介入を試みている点で特徴的である。この裁判官の調停者的機能は、ドイツの家庭裁判所の特徴としても挙げられるところであるが、いずれの場合も調停者として対応する者が法曹ないしそれに準じる者であることか注目される。これらの知見は、わが国での調停制度の改革にも有益な示唆を含むものといえる。本研究については、これらの成果を踏まえ、一定の提言を公表したいと考えている。
|