本年度は、流動動産譲渡担保と非流動動産譲渡担保との比較考察を行った。本研究者が日本資本主義の発展に貢献したと予想する動産譲渡担保が、果たして流動型であったか、それとも非流動型であったかを見極めるためには、かかる考察が不可欠だからである(本研究者は流動型と非流動型とは同一に論じ得ない前提にある。)。ただし、そこでの比較考察は総花的にではなく、むしろ個別的に、すなわら設定者からの譲受人(第三者)、または、後順位担保権者はよる善意取得の可否を主たる分析対象とした。やや敷衍すると、譲渡担保か設定されている動産を設定者が第三者に譲渡した場合、流動型と非流動型とでは、第三者が善意取得する上でどのような違いがあるか、また、設定者が目的動産を更に譲渡担保に供した場合、譲渡担保と権の善意取得が成立するかどうか(後順位の譲渡担保権が有効に成立するか。)、仮に、これが肯定されたところで、そこでの譲渡担保権の優劣は占有改定で構れないものか、また、こうした結論は、流動型と非流動型の間で、どのような違いが存するかなどに関する考察である。かかる考察の成果については、次年度における、できるだけ早い段階で公表の予定である。 また、本年度は、これまでに蒐集できた資料の整理と集計も行った。ここでの資料としては統計資料と裁判例が主なものである。統計資料としては、明治期から大正期における、日本経済に影響を与えた紡績業(主として絹糸業)の動向を示した資料であり、また、裁判例としては、主に、集合動産譲渡担保に関する事案のものである。
|