本年度の前半では、公刊裁判例を中心に、動産譲渡担保の法的構成を解明するための考察を行った。その結果、裁判例に対する理解としては、個別動産を目的物とする場合と集合動産を目的物とする場合とで法的構成が異なって解されてきていること、つまり、前者においては所有権的構成が、また、後著においては担保権的構成が採られているとの知見を得るに至った。 本年度の後半は、生糸の輸出が外資の獲得、ひいては、日本資本主義の生成期(明治期)に果たした役割が甚大であったとの認識の下で、生糸の生産渦程に着目し、生糸(ないし繭)を担保に製糸業者が資金を調達した状況と方法を、できる限り計量的に分析することで融資形態の考察を試みた。その結果、この時期においては、生糸(ないし繭)という動産の担保取引が不動産を担保に融資を受ける以上に重要であった、という実態を実証的に明らかにすることができた。すなわち、当時の製糸業においては、固定資産の形成という需要に対しては、不動産を担保物件として融資を受ける場合が少なからず散見されたが、しかし、流動資産の調達という場面では、生糸(ないし繭)が担保物件として重要視され、しかも、こうした製糸業の領域では、いわゆる流動資産に要する資金が固定資産におけるそれをはるかに凌駕していた。その上、そこでの担保形態としては、譲渡担保(ないし譲渡質)が主であったこと、しかも、いまだ近代的担保制度を知らなかった、民法施行の時代では、こうした担保形態こそがわが国の担保取引の中軸をなしており、これが日本資本主義の発展にとって無視できない機能を果たしてきたこと、などの実態を解明することができた。
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