(1)本年度の研究実績は、後掲の「債権者代位権に関する基礎的考察」と題する論文1編である。この論文で、私は、第一に債権者代位権の沿革に関する通説に疑問を提起し、商人破産主義と代位権との歴史的関係を、地中海交易およびオリエント交易の歴史に遡って論述した。しかし、私の指摘は未だ問題提起の域を出でず、確固たる学説を形成してはいないので、引き続きこの点の研究を行う予定である。商人破産主義との関連も同様であり、問題提起はできたが、資料不足のため確固たる論証を行うことができなかった。 (2)日本の代位権の沿革的研究・比較法的研究から、日本の代位権制度は、ボアソナードによって、フランス19世紀末のパリ大学の研究者の学説が持ち込まれたことが明確となった。しかし、日本においては、ボアソナードの意図がよく理解されず、その結果、民法および裁判上代位法・非訟事件手続法の立法過程において、ボアソナード草案は完全に葬り去られてしまったという結論を導くことができた。この点は有意義な発見であった。というのは詐害行為取消権と同様に、ボアソナードの起草趣旨がうまく反映されないままに現行民法の規定が制定され、その結果、現在に至る種々の論争点となっているからである。 (3)問題は、どのような「理論」をもって、このような解釈論上の論争点を解決すべきかという点にある。私は、フランス法の直接訴権概念を拡大した、実体法上の請求権概念を構築することにより、この問題を理論的に解決できるのではないかと考える。そのために、上掲の論文で新たな権利概念の構築を提唱したが、その内容が未だ未成熟なので、今後の研究によって、要件および効果が明確な広汎な「直接請求権」概念を提唱することに努めたいと考えている。 (4)以上が本年度の研究成果の概要であるが、その詳細については上掲の拙稿を参照されたい。
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