研究概要 |
本年度は,総論として知的財産法の原理論を田村が,各論の情報契約論を小島が,伝統的知識論を田上と田村が主として担当した。 具体的には,総論の分野では,田村は,知的財産権の哲学,政策学に関する欧米の議論の検討を開始し,知的財産権にあっては,所有権と異なり,有体物に関わることというようなfocal pointを欠くために,権利が無限定に国際的に広がる性質を持っていること,ゆえに,ロビイイングに弱く,公衆のような組織化しがたい利益が反映されないまま,多国籍企業等の利益に従って権利が強化拡張される傾向にあること,ゆえに公衆の自由を確保する制度的な措置が必要であることという知見を得た。その制度的な構想は次年度以降の課題となるが,その地固めとして,知的財産法と経済学という観点をバイオテクノロジーにそれを応用した論文を発表するとともに,有望な英語論文の翻訳を公刊した。 各論として,情報契約論に関しては,田村が拠点リーダを務める北大法学研究科21世紀COEプログラムに招聘されたWendyGordonと,田村,小島が交流し,相互交流に務めた。小島は,サイバースペースにおける情報取引のあり方について自己の立場をまとめる論文を発表するとともに,営業秘密の法的保護,美術館や博物館等における電子アーカイヴ事業をめぐる法律問題に関する研究などの派生的な問題にまで検討の対象を広げた。 また,田上は,遺伝資源の国際的な認証の在り方に関する技術専門家会合における遺伝資源の国際的な認証制度創設に係る議論、世界知的所有権機関(WIPO)における伝統的知識及びフォークロアの保護に係る規定案の策定に係る議論、国連人権委員会の「先住民に関する作業部会」における「先住民の遺産の保護に関する指針及び原則」に係る議論等について、それぞれ調査し、比較研究を行った。田村も,知的財産法は競争的に社会を繁栄させる文化を前提としており,持続的な共同体文化には妥当するものではなく,問題はその両文化の調整にあるという観点から,伝統的知識に関する原理論を考察する論文を発表した。
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