今年度は、田村が、情報正義論の総論の構築につとめた。その結果、第一に、知的財産における情報として観念されている知的創作物なるものは人の行為と分かちがたく、ゆえに知的創作物という情報に関する権利を認めることは他者の自由を制約することにほかならず、当然に権利を設けるべきであるとはいえないこと、しかも、第二に、法による規制のほか、市場による規制もありうるから、知的創作物という情報の未保護領域があるからといってただちに立法による保護を創設する必要はないこと、第三に、かりに立法するとしても、可能な限り人の自由を制約せずに目標を達成しうるような規制のポイントを探索すべきであり、第四に、政治的な責任を負わない司法は、権利の創設には謙抑的であるべきこと、を解明した。既存の法学にはない斬新な情報正義論を構築しえたと自負している。 そのうえで、各論に関しては、田村と小島が、情報取引の分野において、Google Booksが契約が成立しなかった場合のデフォルトを権利の行使に置かず、契約が成立しなければ金銭的な補償を後に支払うことを条件に利用を認めるという枠組みを、クラス・アクションに基づく和解という形式で呈示したことに対して、政策形成過程の閉塞を打破する試みとして評価する作業を行った。また、小島と田上は、それぞれ著作権の表現の自由、遺伝資源という領域における内外の動向を調査し、それが文化政策に対して著作権あるいは知的財産類似の権利を道具主義的に位置づけるべきか否かという問題であることを解明した。 最後に、目的手段思考様式ではなく、義務論的に、知的創作物を特定しその利用行為という形で侵害の要件を定めることには、司法の場に限らず、社会において適法行為を遵守することを可能とし、内的視点の獲得を容易にするという側面があることに留意するという研究の方向性を定め、本研究の成果を将来の研究に活用することも確認した。
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