平成18年度は、研究を発展させるための基礎的な土台作りのための作業として位置づけ、医療において患者の自己決定権が諸外国(アメリカ、イギリス、ドイツ、オランダ、カナダ他)においてどのように考慮されているのか、その立法・学説・判例の最近の動向と現状を、主に文献研究を中心に調査した。また、日本の判例における議論状況についても、上級審を中心として検討する作業を行った。これらの作業は、その内容に変化が激しい領域であることに鑑み、来年度も本年度と同様に継続する予定である。 近時、医療に限らず、関係当事者の自己決定権の確保が様々な分野で広く考慮に入れられるようになっていることから、従来は余り重要視されてきていなかった実践という側面がかなり意識されるようになっている。その結果、自己決定権の実践は、実は関係当事者に言われていたような福利をもたらさないのではないかとの疑念が指摘されるようになってきている。本研究では、こうした疑念に対する応答とその解決も、新たな検討課題として生じてきていることが改めて自覚された。 医療事故が発生した場合に、医療関係者が患者(側)に対してその原因等にっいて説明することが私法上義務づけられるかについての日本の議論状況を紹介する研究ノートを英文で執箪することにより、日本での医療における説明義務論の状況を発信する作業を並行して行った。この論点の検討作業は、本研究テーマの中心的課題からは事後処理的な側面が強いものではあるが、自己決定権行使が実現しなかった場合にそれを回復するための方策の一つとして有用なものと思量され、また、日本での議論が欧米諸外国と比較しても独自性・先進性がみられる部分も認められることから、かかる作業は必要であると考えられた。
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