研究課題
基盤研究(C)
平成18年度・19年度を通じ、医療における患者の自己決定権をめぐる日本・諸外国の制定法・学説・判例の最近の動向と現状の議論状況を検討した。近時、医療に限らず、関係当事者の自己決定権の確保が様々な分野で広く考慮されるようになり、「実践」という側面にも焦点が当てられるようになっているが、自己決定権の実践は、関係当事者に必ずしも福利をもたらさないとの疑念も指摘されており、こうした疑念に対する応答とその解決も検討課題となっている。本研究では、自己決定権が措定する人間像について検討した論文(「医事法における人間像)、医療での患者の自己決定権が諸外国でいかに考慮され制度構築されようとしているのかを調査し、その成果の一端を紹介する論文を公表した(「医療をめぐる意思決定と法」)。後者では、欧米諸国の医学サイドからの意思決定援助の提案紹介を中心に、そうした議論が必要な背景とアメリカの一部の州の立法対応を追跡した。わが国でも、自己決定権の重要性を否定する立場は存在せず、最高裁もこれを肯定している。最高裁の平成18年10月27日判決評釈「予防的な療法(術式)実施に当たっての医師の説明義務」にその傾向に対する論者の評価を示したが、そうした状況下の今日では、総論的立場に合意が得られた延長線において、医学サイドからの提案内容を法的見地から紹介・精査することも必要である。本研究では、文献研究を中心とした作業に加え、インフォームドコンセントについて高い水準と実績を有する医療機関に出張し医療関係者に対する面談も行った。また、以前出版された教科書新版を出版するに際し、医療において特殊な配慮を必要とする患者層に関する医事法上の問題を検討する章の内容を改訂・追加したほか(「特別な配慮を必要とする患者」)、医療事故処理に関する世界の動向についても論文を公表した(「医療事故の民事責任をめぐる近時の動き」)。
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