本研究は、主として日本の家族法を素材としながら、「法とは何か?法の進化的基盤は何なのか?」を探求した。 その中で、「第1章家族法と進化生物学」では、まず第1節で「離婚後扶養(義務)」を例として進化生物学的分析視角から、離婚後に元夫が元妻になお扶養義務を負うことの根拠を、男女の性差に注目して提示した。第2節では「集団狩猟=父子関係確信」仮説を立て、ヒトの男性が集団狩猟を行ったのは、良質なタンパク質を大量に取得するためだけではなく、父子関係の確信を得るためであることを提示した。 さらに、「第2章家族法と進化心理学」では、第1節で、「夫婦間の貞操義務」は、「嫉妬」という近年の進化心理学で解明の進んだヒトの心理を根拠として正当化できることを示した。第2節では、「法定相続分」において配偶者のみが法定相続人である場合、その進化心理学的基盤は、「配偶者の遺伝子を残すためのinvestmentに既にコミットした本人の心理の必然的帰結である」ことを結論づけた。さらに、第3節では、家族法の範囲を超えて、一般的に(法的)行動における進化的心理を分析する仮説として、「自己の視野内/視野外で望ましいとされる、相手の行動についての仮説-- "DIMS"と"DOMS"」の分析を行った。 最後に、「第3章『エレベーターのジレンマ』--倫理と法の発生過程--」では、倫理と法の発生過程の進化的基盤を考察するために、事例設定を行い、詳細な分析を行った。
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