研究概要 |
最近,高度先進医療として胎児の障害を子宮内で治療する試みがなされている。このため,出生前診断により胎児の障害が発見された場合の選択肢として,胎児治療が新たに出現した。これにともない,臨床の現場では実験的胎児治療を行うに際し「インフォームド・コンセント」のあり方が大きな問題となっている。胎児治療はあくまで実験的な治療であり,現段階では胎児の障害が治癒するというものではない。現在わが国で行われている胎児治療としては,双胎間輸血症候群における胎盤の吻合血管の凝固術がある。治療効果が確立したものではないので,これも実験段階といってよい。さらに今後はアメリカ合衆国で行われているような胎児横隔膜ヘルニアの胎児治療も試みられるようになると考えられる。これは胎児手術であり,手法が確立するまでには多くの実験的試みがなされる必要がある。胎児手術は実験的治療であり,インフォームド・コンセントの問題を内包する。通常のインフォームド・コンセントと異なるのは,治療あるいは実験を受ける側が「ひと」であるか「胎児」であるかという点である。わが国では,胎児はあくまで胎児であり「ひと」としての権利を享受できない。一方,米国では「胎児」は法的に「ひと」として扱われている。胎児に関する法的扱いが異なれば,その治療に関するインフォームド・コンセントについても法的な相違が発生するのも当然である。法の整備が追いつかず医療現場で混乱が生ずる前に,これらの法的・倫理的問題を解決しておく必要がある。今までの研究成果をもとに,今後,胎児治療を円滑に行えるようなシステムの作成および無謀な胎児治療に対する抑制システムを構築する。
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