2年間の研究を通じて得られた知見は次の通りである。第1に、スペイン、ポルトガル、ギリシャにおいては政党システムの構造が木きく異なっているが、その形成にあたっては体制移行のパターンが大きく関係している。特に旧体制との連続性と断絶性の程度が大きく作用している。第2に、3国ともに欧州化の影響は国家構造の変容に特徴的に表れているが、スペインでは自治州国家の形成に象徴されるような地域化・分権化が進行したのに対し、ポルトガル、ギリシャではむしろ調整者としての国家の役割が強化され、中央集権化が強まった面がある。第3に、いずれの国でも政党および政党システムの「大統領化」が観察されることである。 こうした知見に基づき、19年度は学会報告と論文の執筆・公刊に力を注いだ1年であった。本研究成果報告書11の研究成果に記載されていない実績も含めて、20年5月時点で校正刷り段階の論文が3本存在するが、これらは20年度の後半までに公刊されることが確実である。特に、3国における政党システムの形成と政治腐敗の構造化の比較を論じた論考は、この研究による研究成果を統合する意味で最も重要であると考えられる。なお、ギリシャ関係の資料の整備は着実に行われたが、ユーロ高のあおりを受け、渡航調査にまでは至らなかった(むしろ資料的な不備のあったポルトガルへの渡航調査を優先したため)。 また、本研究から派生した個別研究として、スペインにおける自治州国家の展開、スペインにおける利益団体システムの形成、民主化以降のポルトガル政治のヨーロッパへの「収斂」に関する研究がこの1年の間に相次いで発表され、また公刊を待つ段階である。これらの研究は、いずれも政治学分野ではきわめて珍しい対象を扱った詳細研究として、学会等で有益なコメントや批判を受けることができた。
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