研究概要 |
1.18世紀前半におけるフランス・ドイツ・イギリスのコスモポリタニズム思想について、「商業」による平和というアイデアにもとつく諸理論を調査した。モンテスキュー、ムロン、コィエ、D・ヒュームらの議論を見ることにより海外交易活動の進展により諸国民の間に相互依存のネットワークが形成されそれが平和な秩序の形成につながるというものである。特にこの思想の流れについて中心的に研究をおこない、この分野で精力的な研究をおこなっているケンブリッジ大学のIstvan Hont教授と集中的に討論する機会を得た。これらの活動を通して、商業による平和というアイデアは、商業的利害をめぐる新たな紛争の可能性を強調する論者(商業と「嫉妬」)との不断の緊張関係の中で鍛え上げられていったことが解明された。 2.モンテスキューのコスモポリタン思想について、近代思想研究会(慶応大学)、およびUniversity College of Londonの'History of Political Ideas'Seminarにおいて研究報告をおこなった。古典古代、とりわけストア派の影響について精査したが、とりわけ近代におけるキケロ受容の特質について一定の結論を得た。 3,法(とりわけ国際法)や政治制度の整備によって、安定的な国際秩序を形成していこうという「法」による平和というビジョンを解明するため、フレッチャー、ヴァッテル、サン・ピエール等の著作や彼らについての二次文献の収集を行った。また、この時期の文人・文学者に顕著にみられる心情的なコスモポリタン志向について考察をおこなうための予備作業をおこなった。こういった諸議論において、グロティウスや古代のコスモポリタン思想が果たした影響について、徐々に輪郭が明らかになりつつあるが、まだ明解な結論を得るまでに至らず、今後の課題としたい。
|