本年度は、18世紀におけるフランス・ドイツ・イギリスのコスモポリタニズム思想の研究の最終年にあたる。平成18年度におこなった「商業平和論」についての研究や、平成19年度におこなった法(とりわけ国際法)や政治制度の整備によって、安定的な国際秩序を形成していこうという「法」による平和というアイデアにもとつく諸理論の研究を完成させ、また、前年度までの研究で解明しきれなかった論点を確認するため、海外での文献調査もおこなった。さらに、カントとルソーの世界秩序観を比較するという課題に取り組んだ。 3年にわたる研究成果をまとめる作業も最終段階にはいった。ストア派的な伝統をひきつぐフェヌロン的なコスモポリタニズム思想、「祖国なき市民」をめぐるフージュレ・ド・モンブロンのシニカルなコスモポリタニズム、フィジオクラートによる「自然」観念にもとつく商業平和論、アベ・ド・サンピエールに発する「連合」の議論、主権国家の枠組みを維持した世界秩序論のイデオローグとしてのヴァッテルの議論、また、ルソーにおける祖国愛と人類愛という二つの観念の相克といったテーマを深めつつ、それら相互の連関を可能な限り有機的に総括した。これらの成果は、早急に単著の形で公刊する予定である。こうした作業のなか、啓蒙のコスモポリタニズムにとって、まさに対決し、克服すべき「ライヴァル」となったホッブズの主権国家論を本格的に討究するため、論文を発表した。 また、コスモポリタニズムを標榜する思想家に突きつけられてきた批判、すなわち、それは、どこにも帰属意識をもたない無責任な政治主体を是とする思想ではないかという批判に対する一つの建設的な応答として、現代デモクラシーについての論文を執筆、刊行した。
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