平成18年度は、当初の計画通り、文献資料を調査収集し、中国における現地調査を行いながら、そこから得たデーターを検討して、研究の骨格を練り上げていく作業を行った。 第一に、原正市氏が残した40冊にのぼる作業日誌を丹念に調べ、20年間にわたるその活動の輪郭を把握できるように試みた。また日誌の記述を理解するために、関係する新聞雑誌の記事、文献を広く収集した。とくに中国の国内政治・食糧事情の変化という広い文脈において原氏の活動を捉えるために行った一次資料調査と収集は、多くの労力を割いただけに、非常に役立った。 第二に、生前の原正市を知る関係者をできるだけ訪ね歩き、彼らの記憶の中の原正市についてインタビューを行い、文字資料の不足を補った。今年度はインタビューの対象を技術指導を受けた中国側の関係者に定めて開始し、研究代表者は研究分担者の石田教授とともに、現地調査を行った。そこで原氏を受け入れた中国側の数人の関係者を取材し、さまざまな新しい証言を得た。 第三に、こうした取材で入手したデーターは、海外研究協力者の協力を得て、原氏の貢献について農業という専門的観点から助言してもらい、政治学を専門とする研究代表者および研究分担者の不足を補完してもらった。農業以外のデーターについては、研究代表者は中国および日本の国内政治の文脈から分析し、同行調査した石田教授はヨーロッパ市民運動に関する知識をふまえ、毎日の取材結果についてしばしば深夜に至るまで議論を交わし、理解を深めた。また研究分担者の中北教授はその専門である日本の労働政治の観点から、知見を提供して調査内容に対する理解をより充実にした。 以上に述べた初年度の研究によって、原正市氏の中国における活動の全体像に迫り、より広い国際的視野からその意味を理解することができた。原氏が二〇年間、中国全土にわたる活動を解明する第一歩として、当初予期した成果を遂げた。
|