本年度は、本研究の初年度にあたるの、本研究の基盤整備をおこない、第一に、PCの購入や統計分析用のソフトを購入し、比較分析のための統計技法の洗練に向けての研鑽につとめた。とくに、複数の国の時系列データを扱うので、そうしたパネルデータをめぐる種々の計量的な分析技法について検討下。第二に、それに関連して、データの収集や整理に持つと目、OECD諸国の各種の所得格差に関連するデータの収集やそれに深く関わる各種の指標についてのデータを渉猟し、収集し整理する作業を行った。これは、今年度だけでなく、次年度以降も、随時展開することになる。 そして本研究の理論的な分析視角の点では、第一に、OECD諸国の所得格差の比較制度分析の観点をめぐる近年の研究動向について、資本主義の多様性論とそれ以降の現状について調査し、さらにこの点をめぐって、J・ポントソン氏(プリンストン大学)とアメリカ政治学会の際に、意見交換をした。とくに私が前年度上梓した拙稿「OECの所得格差と政治-制度との関係について:資本主義の多様性と社会民主主義的コーポラティズム」(『法政研究』2005年)において示した、所得格差と政治制度配置(労働の組織間関係の集中化)との関係が、負の単線的な関係にあるのではなく、U字型関係にあるという説について、さらに、その視点を発展・継承させるうえで示唆をえた。この点については、「資本主義の多様性論と所得格差」と題する研究発表をおこなった。 第二に、それに関わるが、政治制度との関連で、政策レジームやフィードバック論を発展させて、政策出力と所得格差との関連についても追及した。そのなかで、近年、様々に展開されてきた所得格差の指標を考察するうえでは、再分配の問題に関係する租税政策や、技能形成や解雇規制等に関わる労働市場政策などをめぐる「政策レジーム」や、政策内容が社会へと還流されるなかで所得格差に影響を及ぼすという意味での「政策フィードバック」の問題が重要であることをあらためて発見した。その点を協調すべきこととして、政策レジームと所得格差との関係について論じたものが「政策レジームと所得格差をめぐる予備的考察」である。
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