研究概要 |
当初の計画は予定通り研究目的を達成した。具体的には日本、中国、韓国の青年層の歴史認識の乖離を明らかにするために、合わせて3,090名のアンケートを実施した。13項目の質問への回答分析を通して、三国間には現時点では想定していた以上の歴史認識の乖離が浮かび上がった。その背景には、各国における戦争体験や被植民地体験、教育体制や地域・家庭環境などの乖離が存在していることが指摘できる。そのことは、歴史認識の乖離を埋める行為や作業が、ある種の社会性や政治性を帯びたものであることを示している。従って、歴史認識の乖離を解消していくためには、ある程度共通した社会システムの構築と、相互の相違生を許容していくスタンスが不可欠である。 その意味で歴史認識の相違生を指摘し合い、それを許容していくことによって歴史和解への途が開かれると考える。そのことが結果的には、信頼醸成への方途であることが理解される。そうした結論を踏まえて、次の段階に進むためには、すでに一部の研究者間で開始されているように歴史認識の共有化を図る試みが必要となる。その際、歴史認識の共有化とは、決して同一の歴史認識を持ち合うことではない。その相違生を踏まえ、異なる歴史認識を相互に認め合い、知識や情報を開示することを通して、その相違から生じる誤解や偏見を解消していくことが重要である。その意味で信頼醸成は歴史認識の共有化の作業を経過して得られるであろう歴史和解によって獲得されると考える。そうした考えに基づく作業が、国境を越えて逞しく展開されるために研究者も各国政府も、より積極的になるべきであろう。歴史問題を外交問題として棚上げすることなく、歴史認識の共有化と歴史和解を通して信頼醸成への方途を見出すことが重要である。
|